令和4年度 公開講座を開催しました 2022/9/10

「絵本の読みあいからみえてくるもの」

講師:村中李衣 先生(ノートルダム清心女子大学教授 / 児童文学作家)

小児病棟、保育園、児童養護施設、高齢者施設、日本初の官民協働刑務所(社会復帰促進センター)など様々な場所で いろいろなひとたちと「絵本の読みあい」を続けながら、多くの発信をされ、また、児童文学の創作も行っていらっしゃる 村中李衣先生をお招きし、お話を伺いました。

はじめに「読みあい」について、「読みあいとは、互いの響きあい。そこに醸される空気を大切にすること」と話されながら、この日集った仲間たちが奏でる和やかでホットな空気を喜んでくださいました。


続いてまずは、この日の前日、9月9日にNHK中国地方エリアで放送された番組「塀の中をどうつなぐ? 絵本を読みあう更生プログラム」に触れながら、9月12日にNHK Eテレ「ハートネットTV」で放送予定の「塀の外のわが子を思って ー 絵本を読みあう女性受刑者たち ー」をご案内くださいました。(2022/9/21(水)午後3:30〜再放送)

※ 詳しくは『女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読みあい』(かもがわ出版)をぜひ、お読みください。


次に「小児病棟での読みあいから学んだこと」では、

絵本『はらぺこあおむし』エリック・カール 作 もりひさし 訳(偕成社)を例に〜

初版と改訂版の違いを取り上げながら「食べものの虫食いのあとは、それ以上傷まないよう、食べもの自身がくい止めたあと。食べもののエネルギーをいただいて蝶へと成長するあおむしの姿とともに、そのひとに内包されている傷あと・体験・心 〜 そのひとの物語 〜と絵本の物語が響きあう」と話を進められました。また、小児病棟での「絵本読みあい」の動画を視聴しながら「その場の空気と、音やリズム・生の声がもたらすエネルギー」を体感しました。

※ 合わせて『子どもと絵本を読みあう』(ぶどう社)をご参照ください。


「養護施設での読みあいから学んだこと」では、「絵本の力を借りて、子どもたちと本気で向き合うこと」と話されながら、絵本『きゅうりさんあぶないよ』を参加者全員で読みあい、会場が一体となりました。また、ほかの絵本を例に「選んだ本は責任をもって読みきる」「子どもを物語の住人から降ろさない」と続けられました。

『きゅうりさん あぶないよ』スズキコージ 作(福音館書店)


その後、「思春期の子どもたちとの読みあいから学んだこと」では、『へえー すごいんだね   おにの子あかたろうのほん』きたやまようこ 作(偕成社)を例に、また「お年寄りとの読みあい」についても実体験を交えてお話してくださり、さまざまな場での読みあいの動画も見せてくださいました。

※ 合わせて『絵本の読みあいからみえてくるもの』『お年寄りと絵本を読みあう』(ぶどう社)もぜひご覧ください。


おしまいに「女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読みあいから学んだこと」について、『きんのたまごにいちゃん』あきやまだだし 作(すずき出版)のエピソードを語られました。

ある女性受刑者の「… ごめんで子どもを突き放してきた …… ごめんで抱きしめていいん?」 のことばに、ほかの受刑者が「絵本やけ、できるんやないん。やってみたらいいやん。」と応じて……。

村中先生は『女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読みあい』のなかで次のようにおっしゃっています。「それまで「誰かのために」など、ただのきれいごとで自分からはほど遠いところにあると思っていた人たちが、わが子を想う気持ちを杖に、こわごわ自分の心の内側をのぞき込み、同じ痛みと孤独を抱える仲間がすぐそばにいることを知り、その仲間といっしょに、絵本を読みあいながら歩みをすすめていくー そのくり返しの中で自分が育っていく。 本書は、その学び、学びあいの記録です。」


村中先生の「生の声」と「想い」に、参加者の心と呼吸が重なって響きあい、本当に豊かなひとときでした。今回の講座の報告の締めくくりに、『絵本の読みあいからみえてくるもの』から次のことばを引用させていただきたいと思います。

「絵本をきっかけにして、きつく縛られていた日常のものがたりがゆるめられ、傍らで見取ってくれる他者の存在に励まされ、最終的には自分の力で変わっていく。それは、あかちゃんであっても、子どもであっても、おとなであっても、おとしよりであっても、どんな場所に立っていても、同じだー。」

まさに、このことを実感・体感する貴重な時間となりました。

村中先生、参加してくださった皆さま、本当にありがとうございました。


〈 参加者の声(一部)〉

・読みあいとは、生命と生命の響きあいで、本当にすてきなことだと思いました。

・村中先生のお話を聞くと、心が “ ふわっーと ”なります。肩の力が抜けてリラックスできました。

・実践している方の言葉はまっすぐに届きますね。ひとつひとつの言葉を心にとめて、活動にいかしたいと思います。

・ことばのリズム、個々のリズム、臨機応変。今日のキーワードとして覚えて帰ります。

・「ごめんね」で抱きしめられないひとの存在…… 今まで想像すらできませんでした。

・村中先生の『子どもと絵本を読みあう』に出合ってから20年の時を経て、仲間たちをはじめ多くの方々と、この場だからこそ生まれる空気と時間を共有することができたことを心からうれしく思います。リアル開催できて本当に良かった!

・大切なひとつひとつの「読みあい」をこれからも大事に歩んでいきます。


公開講座の会場では、当会の活動のほか、会が学校で巡回展示している「いのちの本展 〜 みんないっしょに生きている 〜」より、絵本を厳選して展示紹介しました。

本と子どもの発達を考える会

本と子どもの発達を考える会 病院や特別支援学校などで、長年、本を届ける活動を続けてきたメンバーで2010年に設立。 支援の必要な子どもたちへの絵本の読み聞かせなどによる支援活動、 「支援の必要な子どもたちのための本展」・「いのちの本展」の貸出展示ほか、講演などもおこなっている。 著書『読み聞かせで発達支援 絵本でひらく心とことば』(かもがわ出版)2019.12月発行

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