令和7年度 公開講座を開催しました 2025/9/20
「特別支援学校における読書活動」〜 事例や本の紹介など 〜
講師:森 祐子 さん(司書教諭・JPIC読書アドバイザー)
森 祐子さんは、平成4年から長野県の中学校に勤務。各校で図書館教育係・司書教諭を歴任し、長年、学校現場で楽しい読書活動を実践されています。
そんななか、平成15〜19年度末まで松本養護学校に勤務し、図書館の整備を手掛け、さらに、平成31年〜現在、ご自身2回目となる松本養護学校勤務。司書教諭として、図書館のさらなる発展と特別支援学校における読書環境・読書活動の充実のために尽力されています。加えて、地域ボランティアや公共図書館ほかとも積極的に連携し、本と子どもたちへの愛情を持って、特別支援教育に携わっていらっしゃいます。
今回は、その想いとともに、現場での課題や今後の展望などについて、お話を伺いました。
1、学校紹介と長野県の特別支援学校の図書館の状況
① 松本養護学校:1972(昭和47)年 開設
2004(平成16)年 1回目の勤務の折に図書館整備
☆ 森先生いわく、1回目に赴任された時、学校に図書館がないことに驚き、学校図書館法に照らし、図書館の必要性を訴え続け、自らその整備にあたったのだそう(拍手👏)
※ 令和3年9月、特別支援学校設置基準 公布。図書館含む校内施設の設置基準が定められ、既存校にも基準を満たす努力義務が示された。施設及び設備に係る規定については、令和5年4月1日より施行。
松本養護学校は、現在、大規模改修中:2027(令和9)年完成予定。図書館も昇降口付近にできる予定
2026(令和8)年 4月 松本支援学校に校名変更の予定
② 県立の特別支援学校
・図書館の状況はそれぞれ。専用スペースのない学校もある。司書配置は(おそらく)なし。図書館業務は、教員の他、業務支援員やサポートスタッフが担う学校もある(よう)
・昨年度(令和6年度)、図書館システム導入。各校の運用状況は不明。松本養護学校では、今年度中にバーコード貸出施行。来年度、本格運用を計画
2、松本養護学校での読書活動 ( ※ リスト参照)
① 日常的な読み聞かせの場面
・聞く楽しみ
・待ち時間の過ごし方のひとつとして(給食の配膳時など)
☆ 大型テレビ・タブレットなどの活用もすすんでおり、学習活動も広がっている面もあるが、刺激としては強く、先にデジタルに慣れると本へ戻るのは難しい印象がある。特に、低学年には、まず「本」の楽しさを体験してほしい。
・聞き手から、読み手へ 〜 高等部の生徒が、小・中学部に読み聞かせ など
☆『おならうた』谷川俊太郎 原詩 飯野和好 絵(絵本館)
中学部時代に担任した生徒さんと 読み合いをした『おならうた』。
当日、元生徒 Mさん(昨年度高等部卒業)が、お母様といっしょに参加してくれていたので、なんと2人で実演してくれました! Mさんは「おなら」を、腕と口を使って音で表現。
森先生は「表現力や創意工夫が、中学部時代に比べて格段にすごい! 彼の成長を実感して本当にうれしいです」と満面の笑み❤️ 会場は、歓声とともに盛大な拍手に包まれました。
② 学習・教材として
教科学習だけでなく、コミュニケーション学習、指先の巧緻性を高める活動などで活用
☆ 破らずに1枚ずつページをめくる → 本を扱うことそのものが手先を上手に使う学習
☆ 字や絵を見ることが学習 → 注目・注視 / 探す
絵本:ことばや数などのイメージが視覚的に伝わる
☆ コミュニケーションや身体活動
= やりとり・声を出す・ことばと動作をつなげるトレーニングにも!
☆ 様々な学習への導入や参考資料として
例:高等部卒業後の生活に向けて(ソーシャルスキルトレーニング)
LLブックの活用例:
『マシロさんとユウリさんの こんなとき、なに着る?』読書工房 編著 (国土社)
→ 季節・TPOに合わせて、自分で着る服を選ぶ!
『仕事に行ってきますプラス1 休けい上手になろう』(埼玉福祉会) → 働く・休むも大事!
☆ 「本」は、楽しむものであり、実用のものである
③ 余暇活動のひとつとして → ひとりで過ごせることの大切さ
☆ 松本養護学校の小さな図書館は大人気! 休み時間は満員御礼
④ 読書旬間の取り組み
・ 職員、生徒によるおはなし会
・ボランティアの方によるおはなし会(ボランティア登録の上、学校からの依頼で実施)
★ ボランティア(当会 事務局長)による報告
およそ20年前、森先生、松本養護学校1回目の勤務の頃から、現在に至るまで、学校の依頼に応じて、ひまわり部(重度・重複・病虚弱障害児学級)を中心に、小学部・中学部・高等部でのおはなし会へ出向いている。松本養護学校でのおはなしボランティア活動は森先生がいたからこそ、今に続いており、特に、ひまわり部さんには、コロナ禍を除き、毎年1〜2回訪問し続けています。
・ひまわり部:事前の打ち合わせを丁寧に行う。視認性のよい大型絵本や、歌遊び、ブラックパネルシアターなど、五感にうったえるプログラムを熟考。わらべうたでは、先生方に子どもたちにふれあってもらうなど、児童・生徒さん、先生方もリラックスできるような雰囲気を心がけています。
・過去には、中学部、高等部、継続して6年間、お招きいただいたことも。また、森先生が2回目の勤務で松本養護学校にいらしてからは、読書旬間の昼休みのおはなし会に出向き、楽しい時間を共有しています。
同じく20年前、ボランティアとしてかかわっている松本市空港図書館において、当時の図書館司書さんが「私が先例となり、受け入れます」と言ってくださり、その熱意により、森先生のクラスをはじめ、何クラスか図書館遠足の受け入れが実現したことも、印象深く、うれしいことでした。
“ ひと” と “ ひと ”との つながりと想いが、子どもと本にかかわる “ ひとたち ”の輪を広げていくんだなぁ〜
⑤ 公共図書館との連携(校外学習での図書館利用:図書館遠足)
例:令和7年2月28日(金)10:30〜11:30 中学部1年生 生徒11名・職員7名
松本市梓川図書館訪問(休館日:図書館利用講座として受入れ)
・ねらい:中学部の生徒会で1年間図書委員会の活動をし、本や図書館に親しんできた生徒が、公共図書館利用の実体験をする。
・図書館司書による図書館利用説明 & おはなし会
・図書館利用体験:自由閲覧、学校カード(子ども読書カード)を利用し、カウンターで一人1冊 図書を借りる体験 → 後日、職員がまとめて返却。図書館員さんへの質問も。
・生徒の様子 / 職員の感想など
⚪︎ 事前の打ち合わせを丁寧に行なったことで、おはなし会では、生徒にあった選書、プログラムを考えていただき、集中を切らすことなく楽しんで聞く様子があった。
⚪︎ 自由閲覧の際には、多くの本を興味深く眺め、借りる本を選んでいた。本を借りた生徒は、思い思いの場所で読み、読まない生徒も椅子に座って落ち着いて過ごしていた。
⚪︎ 借りたい本を図書館司書さんに質問し、他館にしかないと知った生徒は残念そうではあったが、質問できたことに達成感を得た様子で、司書さんの(レファレンスサービス)案内で納得のいく別の本を借りることができた。
⚪︎ 帰校後、借りてきた本を教室で熱心に読む姿が多く見られてた。
⚪︎ 休館日に対応いただき、貸切状態だったことで、生徒にとって心理的負担が軽減された。
⚪︎ 大きな図書館で本を借りる特別感を味わい、カウンターで借りる体験ができてよかった。
⚪︎ 事前学習、当日の体験学習を通して、公共図書館の使い方を知り、休日や余暇の過ごし方の選択肢につながるよい経験となった。家庭での図書館利用のきっかけになればと思う。
★ 図書館遠足を実際に受け入れられた、松本市図書館司書さんからの報告もありました!
3、これから
・特別支援学校の図書館は、まさにこれから…
☆ 人とのつながりを大切に
☆ 研修などの機会を通して、各校で、本を活用した学習活動がたくさん行われていることを知り、特別支援の場における図書館・読書活動好事例を集約・情報発信・共有していければ、大きな財産になると感じています。
☆ できることをやりつつ、
その時がきたときに 即座に対応できるように …。
を、大事にしていきます!
〈 参加者の声 〉
・森先生の本への思い、図書館への思い、子どもたちへの思いが伝わってきました。
・子どもと本に、教師も、ボランティアも、そして公共図書館も深い愛情をかけていることを感じて、ほっこりしました。
・実践のなかから、何冊か紹介してくださった本、一冊一冊が魅力的で、今、担当している子どもたちとぜひ読んでみたいと思いました。
・特別支援学校での読書活動が、成人後(卒業後)の生涯学習、余暇活動につながるよう、何かしかけができればいいと思いました。
・法的な根拠、県内の特別支援学校の図書館の現状にも目を向け、課題もしっかりと捉えた上で、図書館整備と読書活動の充実のために、今できることを前向きに実行する。その行動力に感服です。何より、日常の学校生活のなかで、子どもたちと笑顔でふれあい、本を通して豊かに学びあい、日々、楽しく本を読みあっている姿が目に浮かびます。
・学校には昔から図書館はあるもの。と思っていたので、特別支援学校の状況を知り、驚きました。どの学校にも充実した図書館ができるといいな。と思いました。
・ほんとうの意味で、子どもの心に本が届くには、やっぱり、“ ひと ” の存在こそが何より大切だなぁ〜。と実感。子どもと本への深い愛情を感じ、共感してやみません❤️
・森さんのユーモアたっぷりのお話。聴き応えがありました。行動力と思いの強さのバランスがとってもよくて、う〜ん、すばらしい!
・元生徒さんとの『おならうた』の読み合いに感激! 拍手👏
公開講座の会場では、当会の活動 & おすすめの本 の紹介展示をしました!
今回、一般の方も多く参加してくださいました。
森さん、参加者の皆さま、ありがとうございました。
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